6.ロードレーサーの苦痛 

 ロードレーサーに乗って颯爽と街中を駆け抜ける。あるいは、サイクリングロードで風を体いっぱいに感じる。見ても聞いても、やってみたいという衝動に駆られる。これほど手軽で健康的な趣味はない。と、まあこんな具合に書いてみたものの、もし、身近で始めようとする人がいれば、一言注意をするだろう。「見た目とやるのとは大違い」、「見た目が爽やかなものほど大変」といった内容のことを。

 人間は二足歩行をする動物である。四つん這いで歩いてみればわかるが、非常に歩きにくい。ロードレーサーは見ての通り、ほとんど四つん這い状態で走っている。つまり、足は当然であるが、それ以外の部分にも無理がかかっているのである。では、どこに無理がかかっているか? 二足歩行と比べてみればすぐにわかる。上からいくと、首、手、腰、尻である。もう少し具体的に説明する。首と言われると、なぜ痛むのか理解できないと思う。最も簡単なのは、四つん這いになって正面に置いたテレビを10分程度見ればすぐにわかる。これと同じ状態で数時間乗るわけであるから当然首が痛くなってくる。手は、手のひらと肘である。手のひらは、前のめりでハンドルを握るので、体重の一部がかかり、押されることによる痛みと、血行不良による痛みである。血行不良はしびれてくるので非常に苦痛を感じる。時々ハンドルから手を放し、血行を良くしてやらなければならない。前かがみでハンドルを握っているので肘にも体重がかかる。ひじを曲げた状態にしてクッションを効かせればいいのであるが、そうすると非常に疲れる。どうしても肘を伸ばしたままにしてしまうので、地面からの衝撃を肘が直接受けることになる。これも痛みにつながる。ロードレーサーのタイヤは空気圧が高く、ほとんどクッション性がないのである。腰は見た状態ですぐにわかる。腰を曲げた状態でこぐわけであるから負担は腰にくる。最後に尻である。これはちょっと理解しにくいかもしれない。クッションのいいサドルに座っているのに、なぜ痛むのかという疑問が出てくると思う。ロードレーサーに乗っていて、最も我慢できない痛みが尻である。この痛さはちょっと説明できない。できることならサドルに座らず、尻を浮かせて走りたくなる。しかし、きついのでそうもいかない。そこで尻をつける。また痛みが走る。この繰り返しである。タイヤは上記のとおりクッション性がない。サドルにもクッションはない。材質はクッション性のもので作られてはいるが、通常の自転車のようなスプリングは入っていない。だからといって、ここに座布団を敷いて乗るわけにもいかない。では、ウエアを工夫すればいいのではないか? 実際にウエアは相当な工夫がされている。非常に分厚い3次元のパットが縫い付けられている。まるでおしめをしているようで歩きづらいくらいである。にもかかわらず痛みが解消しない。これほど工夫がされているところを見ると、全員が同じ苦痛を感じているのである。それにもかかわらず、ロードレーサーに乗る人が絶えない。おそらく、これほどの苦痛があるとは思わず、高価なロードレーサーを購入したのではないだろうか。買った以上乗らなければ、という気持ちで乗っているのかもしれない。この痛みは慣れることで解消させるしか方法がないように思う。週に2、3回も乗れば自然と慣れて、痛みもなくなってくるのだろう。月に1、2度程度なら、「乗っている間中苦痛」、「翌日も苦痛」ということで、趣味として継続させることは困難だろう。いかに人間の体が二足歩行に向いた構造になっているのかを思い知らされる乗り物である。それだけに、あまり乗りすぎて、尻の痛みがなくなることを恐れている。それは、体全体が四足歩行向きに進化(退化?)していることを意味するからである。頭脳だけは二足歩行のまま残したいが・・・。