16.感動

 歳のせいか、最近感動することが少なくなってきた。少々のものを見ても聞いても、「ああ、そうか」、「ああ、そんなものか」で終わりである。今ま でに多くのものを見、聞き、経験してきたせいであろう。これでは人生がもったいない。何かの本で「人生は冥途までの暇つぶし」というようなことを目にした ような気がする。いくら暇つぶしとはいえ、もっと楽しく、ハラハラドキドキとしたときめきや、感動・感激を味わえる毎日を送りたいものである。

 まず、手始めに美しいものをじっくりと見てみることにしよう。しかし、美術館では目的を達成することはできない。芸術作品を見て美しいと思えるよ うな感性も知性も持ち合わせていないからである。唯一美しいと思えるのは女性ぐらいか? きれいな女性を見て、「ときめき度」を確認。これは失敗である。 誰を見てもときめく。駅、道路、コンビニ等、いたるところに監視用のカメラが設置されている。もし、ここで何か事件でも起きれば、間違いなく逮捕されてし まうだろう。監視カメラの映像には、非常に怪しい人物として映っているに違いない。これは即刻やめることにした。

 大きな感動や感激を得ようと思えば、それに見合うような大きな努力が必要となるのではないだろうか。努力が大きければ大きいほど、感動も大きいも のが得られるだろう。簡単に達成されるような目標ではだめである。分かってはいるが、いい歳をして今更とんでもない努力をしよう、という気にはなかなかな れない。どうしても、わずかな努力で大きな感動を得ようという方向へいってしまう。今まで蓄えた英知(?)を最大限に使って、要領よく達成できないものか と・・・。世の中、そんなに甘くはない。そのようなまやかしの感動は用意されていない。

 ある日、ホームページの新コーナー(自力車)を開設するにあたり、いろいろと材料を集めているときに、「全日本マウンテンサイクリングin乗鞍 2016」※というものを見つけた(詳細は別途、「自力車」で)。これは無理かもしれないが(いや、絶対に無理だと思うが・・・)、やってみる価値はあ る。と、もう一人の自分がささやく。ささやく自分は言うだけなので簡単でいい。しかし、実行する自分は大変である。なんといっても、それに見合う体力作り をしなければならないからである。おそらく、準備に1年近くかかるだろう。しかも、それだけやったからといって体力が付く保証はない。若ければそれなりの 効果も期待できるが、歳を考えると効果よりも怪我・故障が心配になる。と、思いつつも、人生には適度な刺激が必要である、とまたまたもう一人の自分。故障 したらしたときである。とにかく、準備は早いに越したことはない。幸い環境には恵まれている。近所には急坂があちこちにある。サイクリングロードもある。 今通っているスポーツクラブにはエアロバイクがある。これをひたすらこぎ続けよう。数か月もすれば可能かどうかが見えてくるだろう。ちょい悪オヤジの無謀 な挑戦が始まったのは去年の11月である。どこまで暴走オヤジを続けられるか? ひょっとすると、すぐにちょい悪オヤジに逆戻りになるかもしれない、と思 いつつ練習すること10か月。その結果が8月28日に出る。結果は2種類しかない。ゴールラインを通過した瞬間に、景色がにじんで見えるような感動を得る か、あるいは急坂が垂直の壁のように立ちはだかり途中リタイヤとなるか、そのどちらかである。 ・・・いや、ちょっと待て、今ふといやなものが頭をよぎっ た。もう1つの結果があるかもしれない。大会会場へ行く途中でパンク。そして棄権・・・。C‘est la vie.

※ 全長20.5km、標高差1,260m、平均勾配6.1%、最大勾配15%の乗鞍高原の坂道を自転車でひたすら上るのである。ゴール地点は国内 ヒルクライム大会の中では最高所の2,720mという森林限界を超えたところになる。King of Hillclimb と称され、「坂バカ」 4,500人が走る。