イチゴの遺伝

◆毎年イチゴをプランターで育てている。露地栽培しない理由はナメクジ対策のためである。最近ではプランターの数を増やし、設置用の台を延長して100株程度を栽培している。100株というと相当大掛かりな栽培で、収穫量も相当なものと思われがちである。しかし、しかしである、思ったほどの収量を得ていないのである。1株から10個の実を収穫したとすれば1000個になる。しかし、現実はそうではない。なぜ、そうならないのか? 何が原因なのか? という疑問が出てくる。

 100株のイチゴを栽培していると、育ちのいい株やそうではない株が出てくる。育ちのいい株がすべてよく実をつけるかというとそうでもない。りっぱな葉を広げ、いかにもこれから大量の花を咲かせ、それらを見事な実に育てますといわんばかりに見えるような株もある。しかし、実際は見掛け倒しで、全く、あるいはほとんど実をつけない株もある。いわゆるつるボケというやつである。肝心な実を付けず、株だけが必要以上に育ち、大きな葉を広げているのである。他の株が一生懸命実を大きくしている時期に、ランナーを伸ばし子苗を作る準備を始めているものもある。このような株が必ず1、2割程度発生する。では、残りはすべて順調に実を付けるかというと、これまたそういうわけにはいかない。5、6割はそこそこ程度しか実を付けない。残りの2、3割が非常に多くの実を付ける。栽培条件である、土、肥料、設置場所等はすべて同条件であるにもかかわらず、このような差が生じるのである。働かない働きアリが存在するのはよく知られている。これはこれで大事な役割があるようである。しかし、実の成らないイチゴの株が重要な働きをする、というようなことは聞いたことがない。家庭菜園では、まったく用をなさない存在となる。こうなると、どの程度実を付けない株が出てくるのかを調べてみる必要がある。

 通常、野菜や果物を改良するときは、最良のもの同士を掛け合わせ、さらにその優位さを高めていくものである。その理屈からすると、イチゴも同じように多くの実を付けた株から苗を取ったほうがいいことになる(イチゴはランナーで増えていくので、これから取った苗は親と全く同じものになる)。毎年多くの実を付けた株から優先的に子苗を取っているのであるが、そうはならない。

 

◆イチゴの実付きに関しては本当に遺伝が関係するのか? 全く実の付かなかった株から取った苗はやはり実が付かないのだろうか? カキのように隔年で豊作と不作を繰り返すのか? いろいろと疑問が出てくる。これはなんとしても解決しなければならない。そこで、ある年に多くの実を付けた株とそうでない株の2種類から苗を取った。そしてそれらを比べてみることで遺伝についての一応の結論を引き出したい。

 

 早速、収穫の終った株を選別し、翌年用の苗を取る準備を始めた。ここで大きな問題に直面することになった。収穫の多かった株はこの時点で相当疲れ果てている。肥料をやって元気を回復させようとするがなかなか元には戻らない。ぐったりとしたままで、苗を取るためのランナーがほとんど出てこないものが多い。出ても細いランナーで、子苗が1、2苗しか取れない。通常であれば1株からランナーが5、6本出て、それぞれから子苗が3、4苗取れる。親株1株で、合計で20苗程度は確実に取れる。実がまったくつかなかった株の中には深く反省をし、お詫びの意味を込めたのかどうかはわからないが、子苗を取っている最中の7月にわずかではあるが花を咲かせ実を付けた(これらの株を狂い咲きと名付ける)。時差などというなまやさしいものではなく季差である。3か月ずれている。これはこれで気になるので、これからも苗をとることにした。本植をしてから不慮の事故で枯れる、あるいは成長不良を起こすものがある。それらの予備として、10株程度を待機させている。今回も待機していた苗がある。それらをそのまま廃棄するのはかわいそうなので、本格的に植えることにした。ただし、正規の苗とは違い、3月になってからの本植えということで、半年程度遅れての栽培となる。これも今後どのような展開を見せるのか興味深いので観察をすることとする。それとも1種類、植木鉢に植えていた3株がともに元気に育っていたので、これらは翌年も引き続きそのままの状態で栽培することにした。

 

◆結果発表―――!!

 今回栽培に使用した株は5種類である。(1)前年に多くの実をつけた株からとった苗、(2)前年にほとんど実を着けなかった株からとった苗、(3)前年に狂い咲きした株からとった苗、(4)前年の親株(廃棄せずそのまま越年させた苗)、(5)予備の苗を半年遅れで本植えした苗である。

 結論としては、やはりというべきか、当然の結果というべきか、(1)の株が最も多くの実をつけた。中にはあまり実をつけなかった株もあるが、相対的に多くの実をつけた。(2)の株は実の付きはあまりよくないが、全くつかないということはなかった。中には(1)と見間違えるくらい多くの実をつけた株もあった。(3)は(2)よりもさらに実の付きが悪かった。(4)は、やや小さなプランターで育てたたこともあるのかもしれないが、ほとんど実を付けることはなかった。(5)の株はほとんど実を付けないばかりか、付いた実もすべて小さなものばかりであった。

 以上のことから、多くの実をつけた株は、やはり多くの実をつける苗を産むという結果になった。しかし、この株は最後まで実を収穫すると疲れ果ててしまうという事実もわかった。そこでこの株を有効に生かすためには、実をつけることが分かった時点で、適当な数を収穫すればあとはすべて摘果してしまうのがいいと思われる。そして余力を持って来年用の苗をとる準備に入るようにすれば、株も元気に多くのランナーを出し、いい苗を採取することができることになるだろう。そして、苗は適正な時期に植えて、管理をする必要があるということも重要である。

 

        多い   普通    少ない

多産系     23    1      6

少産系     10   34     19

狂い咲き          1      3

多年草                  3

予備苗                  7(かつ実が小さい)

      <数字は株の数>

      <多い:20個以上、普通10個以上、少ない:9個以下>

 ただし、多くの実を付けたものは相対的に実は小さい。普通は実の数は少ないが実が大きく見栄えがするものが収穫できた。わが家のイチゴは生食よりもジャムに加工する率が高いので、大ぶりの実よりも小粒なものの方がありがたい。赤味の強いジャムができるからである。今回の件とは関係ないが、実の変形したものが多くなる株も存在する。これも遺伝が関係するのかもしれないが、収穫も終盤になってくると、実は小さくなり変形したものが多くなってくる。株の勢いが衰え、疲れが出てきているものと思われる。