19.ビワイチ
琵琶湖と聞くと何を思い浮かべるだろうか? 日本最大の湖で・・・、あとはよくわからない。クイズでよく出されるのは、「琵琶湖の面積は滋賀県の何%か?」というのがある。これは琵琶湖があまりにも大きいという先入観をうまく利用したクイズである。実際にはそれほど大きな面積を占めているわけではない(答えはコラムの最後に記載)。それ以外でよく聞くのは、京都人が滋賀のことをからかうと、「琵琶湖の水を止めるぞ!」(生活用水の供給を止めるという意味)というのがよくある。これは間違った使い方で、京都へは琵琶湖疎水が引かれており、滋賀県の権限ではどうにもできないらしい。もし、京都へ流れ出ている瀬田川を止めればどうなるか? これは大変なことになるのである。京都ではなく滋賀が。理由は、琵琶湖へ流入している川は119本(一級河川のみ)もあるにもかかわらず、流出している川は瀬田川のみだからである。止めれば琵琶湖が溢れるのである・・・。本当かな?
日本一の湖が近くにあるのなら回ってみたい。それが今回のビワイチである。特別な目的があるわけではない。距離がちょうど1泊2日程度なのである。ということで一周することにした。琵琶湖周辺の地図を見ていると、「道の駅」が多いことに気が付いた。そこには、その地方の特産品が置いてあることが多い。それを見ればその土地のことがよくわかる。ビワイチの経路から遠く離れたところは無理だとしても、近くであれば寄ってみる価値があるだろう。湖の東西南北で自然や街並みも大きく変わるだろう。それらをじっくり、ゆっくりと見て回ることにする。
アワイチでも書いたように、「島は時計回り、湖は反時計回り」が鉄則である。すぐ左側に湖を見ながら走ることができる。ここでも、「しまなみ海道」同様に道路に目印をつけてくれている。瀬田唐橋を起点/終点とする場合が多い。もちろん途中からスタートしても一向にかまわない。矢羽に沿って走れば元のところへ戻ってくることができる(これにはちょっと疑問があるので詳細は別途記述)。琵琶湖までの交通手段によって起点が変わることになる。新幹線で来る人にとっては、米原ということになるだろう。ここには駅直結型のサイクルステーションがある。ここで自転車の組み立てや整備もできるようになっている。何よりもシャワー付きの更衣室があるのがいい。瀬田唐橋からスタートしているのでここはスルーである。
ビワイチはおよそ200km(正確には193kmらしいがこれにも疑問がある。そのため今後は200kmを使用する)である。アワイチに比べると50km程度長い。しかし高低差(215m程度)がほとんどなく、平坦な道をひたすら走るので距離のわりには楽である。きれいに整備されたサイクリングロードもあれば、交通量の多い一般道路もある。そのほとんどが、琵琶湖のすぐ近くを走るように設定されている。ビワイチは最も長いコース(200km)で、これ以外にも「湖東・永源寺コース(94km)」「湖北・余呉湖コース(72km)」「湖西・大津コース(90km)」「湖南・金勝山コース(70km)」「甲賀・信楽コース(71km)」「蒲生・東近江コース(44km)」などがある。それぞれの土地特有の景色を楽しみながら、自分の体力に合ったコースを選べるのがうれしい。
答え:16%(約1/6)
<シャッターチャンスはほんの一瞬>
<この矢羽に悩まされる>
<その2>
琵琶湖大橋を境に北側を北湖、南側を南湖というらしい。北湖一周が150km、南湖一周が50kmである。ぐるっと一周すると、200kmということになっている。ビワイチは、標高差がわずか215m程度しかないのである。ほとんど平坦な道を走っている感じである。サイクリングロード沿いの多くの店が、サイクリスト歓迎のサイクルサポートステーション(注1)を兼ねているのがありがたい。琵琶湖一周をサイクリングすると認定証を発行してもうことができる。これは「輪の国びわ湖推進協議会」が発行している。ビワイチ中に14か所あるチェックポイントの内4か所でクイズに答えればいい。ただし、発行手数料として1000円が必要である。ものは試しと最初のチェックポイントでやってみたが、クイズに回答するページが出てこない。いくらやってもチェックポイントが表示されるだけで、そこから先へ進まない。ここでムダな時間を費やし、大きく出遅れることとなる。
琵琶湖は湖東と湖西でかなり大きく景色が変わる。湖東は平野が多く街並みや畑が広がっている。サイクリングロードはよく整備されている。湖北はビワイチで唯一上りがある。琵琶湖は南北に長いのでいったん向かい風になるとずっと向かい風を受けることになる。非常に過酷なコースに変貌する。しかし、うまい具合に追い風になればこれほど楽なことはない。今回はそれほど強い向かい風に合うこともなく走ることができたのであるが、初日はずっと湖からの風(北西の風)を受け続けた。冬でも走っていると汗が出、止まると汗が引き寒気がしてくるのであるが、これが逆になることが多かった。理由は、湖面を通った風が非常に冷たいからである。走行中に琵琶湖から吹いてくる風を受けると非常に寒いのである。止まると風が弱まり寒さが和らぐ。
ビワイチにもちょっとだけにありがたい目印(矢羽)がある(なぜちょっとだけなのかは(その8)で詳細を記述)。それはしまなみ海道と同じく道路に目印がしてあるのである。これを頼りに進めば、自然と一周できることになっている(これについても(その8)で詳細を記述)。しまなみ海道ほど太っ腹ではないが、なんとか貢献したいという気持ちが伝わってくる。しまなみ海道は起点から終点までブルーのラインであった。しかし、ここは数十メートルごとに示された矢羽である。
「しまなみ海道」「アワイチ」などは海岸沿いで、海の幸が豊富であった。鮮魚や貝類を思いっきり堪能することができた。ここは湖であるから淡水魚ということになり、今までのようなわけにはいかないのが残念である。さて、何を食べられるかお楽しみである。
今回のビワイチは、瀬田唐橋を起点に「ぐるっとびわ湖サイクルライン」を走ることとする。この橋は日本三古橋のひとつらしい。出発時は学生の登校時間帯であり、自転車の大行列に遭遇した。信号が変わって列が途切れるまで写真を撮ることができなかった。
注1:280を超える業者が登録し、修理工具の貸し出し、トイレの使用や給水ができる。
<湖東のサイクリングロードは快適>
<湖岸には葦が生えている>
<その3>
午前6時45分、スタート地点(瀬田唐橋)に最も近い石山駅に到着である。駅前の広場でロードバイクを組み立て、1km先の瀬田唐橋を目指す。明日の夕方には、無事にここへ帰り着くことを誓いスタートである。琵琶湖を左手に見ながら湖に沿って走る。2kmも走ると、近江大橋が見えてくる。渡ってみたかったが、まだ走り出したばかりなので、ここはスルーして先を急ぐことにした。13km地点に最初の目的地がある。「道の駅草津」である。しかし、まだ時間が早く営業前であったのでここもスルーである。さらに10km程度走ると「琵琶湖サイクリストの聖地碑」がある。何やら奇妙な格好をした女性の像が立っている。ここまで25km、約1時間の行程である。ここから先は観光名所を数か所訪れる予定である。まず、「近江八幡伝統的建造物群保存地区」である。ここは昔ながらの古い街並みが続き、堀側から見る景色が美しい。堀のすぐ脇の土蔵がいい雰囲気を醸している。ロードバイクで走るのはちょっと気が引けそうなところである。街並みに敬意を表し、押して歩くことにした。この近くにラ・コリーナ近江八幡がある。和洋菓子で有名なたねやグループが経営している。広大な土地に奇怪な形をした建物が出現する。屋根には芝生らしきものが一面に植えら、あちこちから水がしたたり落ちている。もちろん人の出入りするところにはとい(とゆ)が付けられ掛からないようにされている。ここにもビワイチのお客さんが来るのだろう。バイクラックが設置されている。ここはバームクーヘンが有名である。いつも行列で食べることができないらしいが、この日はすんなりと入ることができた。うわさの焼きたてバームクーヘンセットを食べることにした。ほんのりと温かく柔らかいバームクーヘンであった。疲れた体に糖分は最高にうれしい。しかし、食べ過ぎは禁物である。これを今日のランチにして出発である。
湖岸のサイクリングロードはさざなみ街道と名付けられている。湖東は非常によく整備されていて走りやすい。車道と完全に分離されているので、安全面でも非常にありがたい。しばらく湖東の景色を堪能しながら走ると「道の駅近江母の郷」である。駐車場に入ると大きな看板が目に入った。見ると「本日休業」となっていた。道の駅シリーズは最初から連敗である。ここもスルーである。
ここまでで70km走っている。走り出して20kmあたりから、両方の腿の外側がぴくぴくとつりそうな気配がしていた。それがここにきてかなりひどくなっている。昨夜の寝不足が原因であると思われる。ここから先は適当にごまかしながら走るしかないようである。柔軟体操とストレッチをして、本日のメインイベントである「長浜」を目指す。
<開店前でした>
<まねできなかったのでせめてロードバイクだけでも・・・>
<ぼーとして走る気がしなくなってきた>
<某国の秘密基地?>
<まだ100km以上走るのにランチはこれだけ>
<本日休業>
<その3>
湖岸通りを数キロ走っていると長浜城が見えてきた。木々の間から天守閣が小さく見えた。近づくと桜がより一層城を引き立てていた。目的地はすぐこの近くである。ここは古い街並みに店がぎっしりと軒を連ねている。飲食店、土産物店、アクセサリー、カフェ、酒屋等、ごちゃ混ぜになっている。中でも黒壁スクエアと呼ばれる一帯は特に有名である。ぶらぶらと店をのぞいて回った。観光客も結構多い。もう少しここでゆっくりとしたかったが、出遅れが響き足早にここを出発する。
次は「道の駅湖北みずどりステーション」である。ここでは足の状態を回復させるために、しばらく休憩をすることとした。中を見て回っていると、時期的にイチゴが全盛期でいい香りを漂わせていた。その香りに誘われ、大粒の「章姫」を1パック購入した。ランチがバームクーヘンだけであったので、これでパワーを追加することにした。今日はまだ寄るところが盛沢山である。
湖畔を走り続けると、いつの間にか気分的には湖ではなく海に変わってしまっている。向こう岸ははるかかなたにあり、岸には波が打ち寄せている。これが原因であると思われる。無意識のうちに、気分的にここは海になっている。そんな時にあれっとおもうのが「水泳場」という表現である。「水泳場?」これは間違いで、「海水浴場」と表示するべきだろう、と一瞬思ってしまう。意識が海になっているからである。ここは湖で、海ではないのである。したがって、当然のことながら海水浴場ではない。「湖水欲場」と表記すればいいのかもしれない。「水泳場」よりはすんなりと目から脳へ伝わりそうである。
すんなりと目に入るのは小虫(蚊?)である。湖岸を走っていると無数の小虫が全身に激突する。さすがに顔は痛みを覚える。1匹や2匹ではなく、走っている間中ず――――とである。その数は無数である。野鳥の会がカウンターで計測すれば、おそらく桁が足らなくなるだろう。それくらいの数である。ここを無防備では走れない。サングラスをかけ、ネックウォーマーで顔を覆って防御する。
「道の駅塩津海道あぢかまの里」を目指すが、途中どうしても寄り道をしたい場所がある。冨田酒造である。ここは「七本槍」という日本酒を造っている。飲酒運転になるので試飲はできないが、旨そうなものを数種類、寝酒用と土産用に購入したかった。しかし、時間の関係でここは泣く泣くスルーすることにした。大急ぎで次の目的地へ行く。ところが、高低差の少ないビワイチで、唯一高低差のある賤ケ岳隊道を通らなければならない。脚はかなりぴくぴく感を増しているが、ここは一気に上り切った。日頃のヒルクライム練習の成果である。それでも時間に追われ、道の駅塩津海道あぢかまの里もスルーすることとなった。
湖北の湖岸沿いに一般道路を走るが結構な交通量である。不思議に思っていたが、すぐに理由が分かった。桜である。道路沿いの桜が満開なのである。他府県ナンバーの車も多い。どうやら桜の名所のようである。日が傾きだしているので、山の裏側ではうっすらと暗くなっている。山間部や湖岸を走り、次に目指すのは「道の駅マキノ追坂峠」である。名前の通り結構な坂道を上る。この日2度目のミニヒルクライムである。この日の最後に予定していたのは「メタセコイア並木」であるが、時間的な余裕がなく翌日へ回すことにした。今日の宿である奥琵琶湖マキノグランドパークホテルへ向きを変えた。
<海? 湖?>
<長浜城>
<長浜1>
<長浜2>
<道の駅 湖北みずどりステーション>
<高台から琵琶湖を見下ろす>
<湖北の桜は満開>
<道の駅 追坂峠>
<その5>
奥琵琶湖マキノグランドパークホテル着。ここは大浴場がないので、自室でシャワーを浴びて汗とほこりを流す。さて、お楽しみの時間である。とはいっても、ここには大好物の海の幸というものがない。色々探すうちに、地元で人気の和食料理店を見つけた。しかし、18時になっても「準備中」のままで開店する気配がない。これ以上遅くなれば、明日に影響するのでやむなく他店を探すことにした。やっと見つけたと思えば休みである。唯一、明るく元気に開店していたのはインド料理店であった。ビワイチでインド料理? とにかく腹が減っていたので匂いにつられて入った。ちょっと変な日本語を話すインド人が1人でやっているが、味は非常によかった。大満足である。スープ、サラダ、パパド、炭火焼料理3品、カレー3種(肉、野菜、エビ)、マンゴーラッシーのすべてが美味しかった。特にどでかい(長さ40cm)ナンは最高であった。カレーの辛さは5段階で表示されている。1が日本人向け、3がインド人レベルとなっていた。もちろんここは期待を裏切らないようにレベル1である。もうこれ以上汗をかきたくないというのが本音である。ビールはコロナ・エキストラのみである。1本目は喉の通りをよくするための潤滑用、2本目はじっくりとコロナを味わうため。3本目でようやく炭火焼やカレーを味わうために飲んだ。4本目は・・・。大音量のインド映画をやっていなければ最高の店であったのだが・・・・。
帰りに、寝酒のつまみと土産を購入しなければならない。ここには滋賀県で最も有名な食べものである「鮒ずし」の「魚治」がある。いそいそと出かけたら休みであった。臨時休業である。「御用の方は本店へ」と書かれている。とても歩いて行く気になれなかったのであきらめることにした。琵琶湖といえば鮒ずしである。これを外してはあり得ない。鮒ずしの何がそれほど美味いのか? それは、発酵食品ならではの香りと味わいということになるのだろう。これを肴に日本酒を飲めば、最上級の美味しさを味わうことができる。子持ちのゲンゴロウブナはそれほど旨いとは思わないが、発酵した御飯は最高に美味い。香り、酸味のバランスが非常にいい。これを箸でつまみながら日本酒をちびりちびりと飲む。滋賀の酒である七本槍ならさらにいい。これは今日のコースで寄り道をして購入する予定であったが、残念ながらそうはならなかった。つまみと寝酒はコンビニで準備することにした。まだ喉の渇きが完全にいえていないので、まずはビールで喉を潤す。この後は滋賀県産の純米酒である。これをグラスに入れて、ティファールのポットでぬる燗にするのである。それを飲めば疲れなど一気に吹っ飛ぶのであるが、その吹っ飛んだはずの疲れはしっかりと翌日に待ち伏せをしている。そう二日酔いというやつである。倍返しで襲ってくるからたまらない。今回も「魔の2日目」がしっかりとやってきた。とはいえこれもサイクリングの楽しみである。二日酔いや疲れなどは織り込み済みである。それを見越して日々トレーニングに励んでいるのである。
<その6>
予定通りのぐったりとした目覚めである。しかし、ぐっすりと寝たおかげで脚の状態はすこぶるいい。昨日の痛みは全くない。充実した一日を送れるように、気合を入れて朝食をしっかりと食べる。ビュフェ形式の怖さは食べ過ぎることである。多く食べるのではなく、バランスを考えて食べなければならない。ただでさえ、ロードバイクをこいでいる脚(太もも)が、腹に当たりそうになるのだから、食べ過ぎればどうなるかはいうまでもない。そんなみっともないことは絶対に避けなければならない。きっちりとセーブしながらもエネルギー源はしっかりと補給する。もうすこし食べたいが、胃袋の空間はコーヒーで満たしておくことにした。
昨日とは違って、今日は朝からどんよりとしている。天気予報では夕方から雨が降るかもしれないという。西の空は明るいのでしばらくは心配ないだろう。昨日行きそびれた「メタセコイア並木」へ早朝から出かけることにした。畑の中の緩い上り坂を4~5km走るといきなりその姿が見えてきた。高さ10メートル以上はあるメタセコイアの木が、道の両脇にずらりと並んでいる。木の幹は直径70~80cmはあるだろう。これが2.4km続く。なかなか壮観な景色である。ただ、ガイドブックで見るような華やかさはない。まだ葉が茂る前で、新芽がわずかに出たところである。じっくり見ると、鯛の身をきれいに食べつくした時の骨のようである。夏であれば、涼しい木陰を提供してくれて、気分良く走れることだろう。骨に身を貼りつけたところを想像してみたが、風が冷たく寒くなったので早々に次の目的地へ向かった。
この後は琵琶湖の西岸を南へ下っていく。その途中、今津の漁港を通っているときに淡水魚の専門店を見つけた。ひょっとすると、ここなら鮒ずしをおいているかもしれない。期待に胸を膨らませ入店。「ありますよ」の返事に、思わず心で小さくガッツポーズである。期待通りであったが、大きいものはすでに売り切れ、小さなものしかないという。1匹購入し、厚かましくも大好物の発酵した御飯を大量に付けてもらった。保冷材を多めにもらい、タオルで2重にくるみリュックへ入れた。なんだか急にうれしくなってきた。あきらめていた鮒ずしが手に入ったからである。ペダルを回す足は軽く、早くも晩酌気分である。
気を引き締め次の目的地へ向かったが、「道の駅しんあさひ風車村」は、現在休業中のためスルーすることになった。これで道の駅は2勝4敗である。負け越しは何としても避けたいところであるが、このままでは巻き返しは難しい。何とか新たな手を考えなければならなくなった。
次は高島の旧街並みである。ここで、あきらめていたもう一つの土産を手にする偶然に出会うことになるとは思いもよらなかった。
<メタセコイア並木>
<どこまでも続く桜の木>
<のどかな入り江>
<湖畔の菜の花>
<その7>
高島は長浜ほどではないが、それなりに落ち着いた街並みが保存されている。このようなところへくると、自転車といえども速度が速すぎる。ここは歩くのが一番である。押しながら歩いていると、道沿いになんだかうれしい文字を見つけた。看板には「萩乃露」と書かれていた。昨日七本槍を購入できなかったので迷わず店へ入った。偶然の出会いに感動しながらも、何やら不思議な縁を感じた。多種類の酒がおかれていたので、ぜひ試飲をして気に入ったものを購入したかったがそうはいかない。飲酒運転は厳禁である。店の方にいろいろと話を聞きながら、大吟醸、特別純米山廃原酒、純米酒の3本を購入し、宅急便で送ってもらうことにした。さすがに一升瓶3本を背負って走る気はおきない。背中のリュックには、鮒ずしがずっしりとした存在感を示している。
どんどん南へ下り、ちょっと山間部になるが「道の駅妹子の郷」へ行くことにした。何とか道の駅シリーズの星を五分にしたいからである。ここはコンビニが併設され、使い勝手のいい道の駅である。喉が渇いていたので「びわコーラ湖珀」を購入する。ぐびっと喉を潤す。気分的にはビールを装うが、似て非なるものである。ちょっと違ったのど越しではあるが、むりやり満足させる。名物のでっち羊羹と若鮎の甘露煮も買った。ちょうどランチタイムだったので、ここで食べることにした。さて何を食べようか? ・・と、迷う間もなく、目に飛び込んできたのが近江牛である。これを見た以上は食べないわけにはいかない。早速オーダーである。いい肉は脂がうまい。香りもいい。ビワイチも残りわずかではあるが、余力を持って完走できそうである。坂道を下り、湖岸通りに出ると琵琶湖大橋が見える。自転車は無料で渡ることができるようであるが、見るだけにして橋のたもとにある「道の駅びわ湖大橋米プラザ」に寄った。これでようやく道の駅シリーズは4勝4敗の五分にすることができた。米プラザというだけあって、多種多量の米が置いてあったが、あまり興味がないのでさっさと先を急いだ。途中、雄琴温泉を通ったが、夜のようなきらびやかさはなく、ひっそりとしているのを横目でちらちらと見ながら通り過ぎた。
そろそろビワイチも終わりである。大都会の大津へ入った。交通量は今までとはけた違いである。ビワイチの矢羽が見当たらない。自転車なんかにかまっていられない、といった雰囲気のする街である。こんなところはさっさと通り過ぎ、最寄り駅の石山駅を目指す。ここはありがたいことに駅の入り口が2階にあり、そこが大きな広場になっている。出発時もそうであったが、帰りもここの広場を使用させてもらった。輪行袋にロードバイクをしまい込み、夕方の通勤ラッシュに合わないように早めに帰宅した。
事前の知識として川が多いということはわかっていたが、実際に走ってみてその数に驚いた。それらに架かる橋は中央部がわずかに盛り上がっているので、どんな小さな橋でもわずかにアップダウンを感じる。自転車という繊細な乗り物にとっては、気になる高低差である。美しい自然の中を走っているがゆえによく目についたのが、太陽光発電のパネルの多さであった。墓も多かったなぁ。カラスは都会のように集団で電線にとまり、見つけたゴミ袋を引きちぎるのとは違い、単独で湖畔をうろつきエサを探しているものが多かった。カラス本来の姿を見たようで、ほっとしたような、嬉しいような気分にさせてくれた。
ということで、無事にビワイチを完走した。走行距離221km、消費カロリー4660kcal。これだけハードなビワイチを実施したにもかかわらず、アワイチ同様に体重が増加した。
なんでやねん! 原因はナン(長さ40cmはあった)か? カレーの辛さ1ではなく5にするべきだったか? 鮒ずしを肴にぬる燗の萩乃露をちびちびやりながら、反省会と次回への対策を講じることとする。
<高島1>
<高島2>
<この高さからの飛び出しは危険>
<道の駅妹子の郷>
<びわコーラ>
<道の駅びわ湖大橋米プラザ>
<琵琶湖大橋>
<石山駅広場>
<その8>
1泊2日のビワイチも無事終了した。本来ならそこでコラムも終わるのであるが、気になったことがあるので、おまけとして追加しておくことにする。
ビワイチを実施するにあたり、琵琶湖関連のガイドブックを読んだ。そこでどうも気になってしょうがない表現があることに気が付いた。「琵琶湖」「びわ湖」「びわこ」「ビワコ」と4種類の表記がされているのである。「奥琵琶湖マキノグランドパークホテル」「ぐるっとびわ湖サイクルライン」「びわこ一周レンタルサイクル」「ビワコマイアミランド」、等である。これらはすべて固有名詞であるから、違った字を当てはめるわけにはいかない。このコラムのように文章にするためには、正しい表記をしなければならない。これが結構面倒くさいのである。そこでこの表記の違いや使い分けを確認してみたがよくわからない。「琵琶」の字が複雑なので、わかりやすく「びわ」にしたり、「びわ」までひらがなにしたのであるから、「湖」もついでに平仮名にしておこう、あるいは、後ろがカタカナだから琵琶湖もカタカナにしておこう、といった軽いノリなのかもしれない。とにかく基準がわからないから、その都度調べるより仕方ないのである。これは何とか統一してもらいたいものである。
もう一つ気になったのは、ビワイチコースの誘導用矢羽である。これを目指していけば、ぐるっとびわ湖を一周できるものと思っていた。ガイドブックやインターネットで得た情報にもそう書いてあった。しかし実際はそうではなかった。矢羽はざっと見たところ、地域によって10、20、30、50、100mごとにつけられている。非常に熱心に矢羽が付けられている地域もあれば、大雑把なところもある。ひどいところになると、琵琶湖のすぐそばの道へ誘導したらその後は矢羽なし。確かにここで道に迷おうと思っても間違えることはない。しかし、ルールとして、たとえ100mごとでもいいから矢羽の一つぐらいはつけてもらいたいものである。もっとひどいところになると、湖岸から離れているにもかかわらず矢羽がなくなるところがある。これならいっそ、交通量が多く危険であっても、幹線道路を走った方がましだ、という気にさせられる。湖西は幹線道路に沿って自転車専用道路を併設できないところが多いため、山側の道を右へ左へ、また右へ左へとこれを繰り返す。景色を見たりわき見をすると矢羽がなくなり(見失う又はなくなる)、引き返すことになる。油断も隙もない道へ誘導される。
なぜこのようなことになっているのか。ビワイチの主宰者である「輪の国びわ湖推進協議会」に確認してみた。すると、この団体は民間事業者や市民団体が主体となって立ち上げたものだということがわかった。これではしょうがない。要するに権限がないのである。道路を拡張したり、矢羽をつけたりすることは、国や県、市の道路行政ということになる。ここへ色々と要望を上げているようであるが、予算や地理上の問題もありペンディングになっているものと思われる。また、矢羽の間隔については、試行した当初のものや、その後に決定したものなどの違いによりさまざまになっているようである。
これらを踏まえ、もう一度ビワイチを実施するとしたら、どのようなコースを設定するだろうか? 瀬田唐橋をスタート(通勤・通学の時間帯を避ける)して、湖東を湖北に向かって北上する。そして、湖北に着くとそのまま同じ道を南下して瀬田唐橋をゴールとするコースを設定する。帰りのコースは頭の中で反転させれば、湖西を走っているように感じることができる。これで距離的にも気分的にも琵琶湖を一周したような気になれる。これを名付けて「バツイチ(バーチャルなつもりで琵琶湖一周)」とする。湖西の交通量と自転車専用道路の確保の難しさ(注1)を考え合わせると、琵琶湖を一周するには無理がある。多くのロードバイクが、湖西の一般道路を走る危険を考えるとバツイチを推奨する。
注1:特に白鬚神社付近