先日、菜園でトマトの手入れをしていたときに、スズメが激しく鳴く声が聞こえてきた。いつものように、エサをねだったり、なかま同士でえさを取り合うような声ではない。風雲急を告げるような、あるいは警戒を告げるような、そして一種の悲しそうな鳴き声であった。
今日は不思議な鳴き方をするものだなと思い、その方向を見やった。柿の木で数羽のスズメが飛び回りながら鳴き続けていた。あまりにも長く鳴くので、あたりをきょろきょろと見まわすと、電線に止まった鳥が小鳥の羽をむしり取っていた。小鳥は色からしてスズメだろうと推測された。仲間が連れ去られたのを見て、スズメたちが騒いだのだろう。そんな鳴き声をものともせず、その鳥は一心不乱に小鳥を食べていた。スズメが襲われて鳴き続けているのと同時に、ツバメも5、6羽が激しく鳴きながら上空を飛び回っていた。こちらも何かを警戒するような鳴き方と飛び方であった。スズメが鳴くことでツバメが反応しているようであった。種類は違っても共通語というものがあるような気がした。
その鳥はハト程度の大きさで、猛禽類独特の体型とくちばしをしていた。全身に黒っぽい斑点があった。この近辺で猛禽類を見かけることはなかった。せいぜいモズを見かける程度である。これほど大きな猛禽類は初めてである。しかも獲物を捕まえて食事中というのはさらに珍しい光景であった。その体型と色合いをしっかりと目に焼き付けて検索である。大きさと色合いからチョウゲンボウと判明した。名前に関するいわれが書かれていたが、あまりあてにできそうにないのでここでは割愛することとする。その代りに別名が面白いので記しておく。かつて、鷹狩用に飼育したが、ろくな獲物しか捕ってこなかったので、馬の糞のように役に立たないということで馬糞鷹というようになったという。なんとも不名誉な名前を付けられたものである。しかし、電線に止まって獲物を食べている姿は決して馬糞鷹には見えない。勇敢な猛禽類そのものに感じた。
人間にとって有用なものと、生きるために獲物をとって食べる行為とは全く別物なのである。人間にとって有用でないからといって“馬糞“に例えるのはあまりにも失礼というものである。しかし、このコラムの題名は”馬糞鷹“にすることとする。