古木の小箱

<しっかりと蓋を閉じたところ>

 

<中に埋め込まれたハマグリ>

 

 かつて行きつけであった東急ハンズ(現在はハンズ)で黒柿の木片を見つけた。大半をランディングネットのグリップに使い、先端部分が残っていた。表面にきれいな木目を出し、捨てるに捨てられなかった。かといって、何かをつくろうという意欲もなかった。こういう時に最適な方法は、ただじっとアトリエの資材置き場においておくことである。ただし、よく見える場所がいい。時間が経つうちに、ふと目にした瞬間に創作意欲がわいてくることがあるからである。

 今回の作品もそのような瞬間から生まれた。このまま小物入れにしたい。半分に割って、上下をくりぬき、小物が入る大きさの空間をつくる。完成後に上下を合わせればいい。いたって簡単にまとまった。結果として、こんな時の方が完成までに時間がかかる。木を半分に切ったところで、ハマグリの貝殻が目に入った。これを埋め込もう。そうすれば、貝殻の蝶番の部分が上下をしっかりと固定してくれる。1ヵ所しか合う場所がないのでさらにいい。

 半分に切ったものに貝殻を埋めるため、穴を掘りだしたがここで問題が発生した。ハマグリの殻の形が意外に複雑で、思うように穴が掘れない。それと同時に上下がバラバラなので蝶番をうまくかみ合わせる事ができない。木の中の様子は当然外から見ることができない。さてどうしたものか? とりあえず片側を埋め込もう。そしてもう片方をどうするか考えよう。埋め込んだ側の貝殻の淵にインキを塗り、もう片方に押し付けて型を取った。しかし、ハマグリの蝶番は思った以上に精度が高かった。というわけで、蝶番はあきらめそれに代わるものを製作することになった。それが2本のピンである。これなら位置がずれることはない。

 この古びた木箱を空けてそのままの色であればあまり感動はない。何かサプライズが欲しい。ハマグリの貝殻といえば、平安時代の優雅な遊びである貝合わせである。貝殻の中は金色に塗ることを決めた。そして周りはより派手に見えるように朱赤の漆を塗った。内面も外面もピカピカに磨き上げた。

 ここでまたまた問題が発生した。中に入れるものが見当たらないのである。いつものように、作りたいものはすぐに決まるが、用途が決まらないのである。

 しばらくの間、そっと思い出をしまっておこう。