7.鳩

 最寄駅へ行く途中に屋根の付いた歩道橋がある。鳩にとっても、屋根があるというのは安心・安全が得られ、居心地がいいのであろう。毎日同じ場所に陣取って、糞を落としている。その下はとても歩くことができない。糞を落とされる恐れがあるのと、滑るからである。誰かが苦情を行政へ申し入れたのであろう。定期的に清掃が行われるようになった。これはこれでいいのであるが、これでは永遠に作業を続けなければならない。非常に無駄な出費となる。急に対策を取ろうとしても予算の関係があるだろうし、と余計な心配をしていた。ある日、この歩道橋に足場が組まれた。いよいよ鳩の糞害対策が始まるのだろうと期待が膨らんだ。長期間をかけて、鳩が止まれるところにはすべて剣山のような突起物が取り付けられた。見た目はいかにもいかつく威圧感があり、芸術性はみじんもない作品であった。しかし、これで鳩の糞害が防げるのであれば、「まあ、よしとするか」と思っていた。しばらくは、この作品の効果が発揮されていた。しかし、鳩の知恵、というよりは技術が上回っていた。剣山をものともせず、うまくかわして止まっているのである。当然、その下は従来の糞害である。するとまたまた、誰かが苦情を申し入れたのであろう。次の対策が始まった。その間はやはり予算の関係だろうと思われるが時間がかかった。いやきっと予算の問題である、そう思いたい。まさか、糞害対策案がなかなかできなかった、などということは絶対にない、と思いたい。そして取られた対策は、鳩が止まれるスペースにネットを張り、止まれないようにしたのである。なるほど、これならどうやっても止まれない。したがって、糞害も解消できる。なぜ、最初からこれだけのことをやらなかったのか? 二度手間、費用の無駄遣いではないか? という声が聞こえてきそうである。

 時間はかかったが、ようやく安心して、歩道橋上部の鳩の位置を確認せず、歩くことができるようになった。と、思ったのも束の間、そこには驚くべき光景があった。なんとこの対策もいとも簡単に破られてしまった。入ることのできないと思われたネットの中に鳩がいるのである(※1)。ネットの中から鳩がこちらを見ている。そして、「人間のレベルって、この程度なの?」と言わんばかりの顔つきである。通常、一般の鳥は、ネットを張ると怖がって近寄らないものである。しかし、ここでは常識が通用しないのである。そういえば、ゴミ収集所に出されたごみ袋にネットを掛けていても、カラスがネットを外して、ごみをあさっていることがある。わが家庭菜園のブドウもやられた。もうネットは効力を失った過去の遺物となってしまったのか?

 鳩からすると、我々に先住権があるのでる。あとからいろいろと障害物を取り付けて、強制退去させようとしても無効である、ということか? 鳩が言葉をしゃべれないのが幸いである。しゃべれれば間違いなく訴えられる。これで、鳩の2勝0敗である。今まで費やした費用はどうするのか? この次の対策はどうするのか? また、予算の関係で時間がかかっているのであろうと思われるが・・・。まさか、まさか、歩道橋の屋根を撤去するというような暴挙には出ないと思うが・・・。

 ここだけのはなしではあるが、ここまでくると、鳩の3勝目を見てみたい。そのためにも試合放棄がないことを祈りたい。

 

※1 最初はネットの取り付け部分の隙間から出入していたが、最近はネットの破れたところから出入りしている。

※2 これは写真がないと理解できないので添付しておく。

 

<E難度:正面飛来、半ひねり、伸身着地>

 

<F難度:前方ネット抱え込み、5回羽ばたき、1/3回転ネットくぐり>