10.体重

 数十年、気になって、それなりの努力はしているのであるが、まったく結果の出ない事象がある。減量である。靴下をはこうと足を持ち上げると腹にあたる。T-シャツは恥ずかしくて着られない。何とも情けないことである。ズボンのサイズが合わなくなる。これはこれで、対応しない限り、日常生活に支障をきたすので、その都度対応してきた。しかし、これは日常であって、非日常については気が付かないまま過ごしてきた。ある日突然、喪服が必要になり、出して着てみると、肩はパンパンで、ウエストはホックがはちきれそうになっている。このままではいつ破裂してもおかしくないので、ベルトでしっかりと留める。ただでさえ気が滅入るのに、体まで滅入ってしまう。こんなことを繰り返すたびに、減量を試みるのであるが結果が出ない。結局、それほど真剣に取り組んでいないのである。わかっているのであるがなかなか真剣になれない。

 こんなことを繰り返しながら、確実に体重が変化したことが2回ある。1回目は禁煙である。この時は1か月で5kg太った。太る原因はよくわからない。しかし、結果ははっきりと5kg太った。よく世間では、禁煙すると食事がおいしくなると言われるが、それは全くなかった。むしろ、タバコを吸えないイライラで、食欲は落ちたように思う。ただ、口元がさみしく、ガムや飴をよく食べたのは覚えている。それだけで5kgも太るとは思えないのであるが・・・。もう一度変化があったのは、毎日飲んでいた酒を週末だけにした時である。この時は3kg減った。「アルコールのカロリーは体内に残らず、肥満との因果関係を調べた研究でも両者に関係はない」、ということを何かの本で読んだことがある。このことが正しいとすると、まったく矛盾する結果である。しかし、よくよく考えてみると、酒を飲むにあたり、かなりのつまみを食べていたことは間違いない。酒をのむ回数を減らしたというよりも、つまみを食べる回数を減らしたことが原因かもしれない。

 体重の増減に全く関係しないことを一つ紹介したい。スポーツクラブである。20年近く通っていて、ここ10年位は週5回のペースである。運動は2パターンあり、1つはプール(クロール:1,500m+水中ウオーキング:30分)、もう一つはジム(ウオーキング:30分、ランニング:4km+筋トレ:15分)である。この二つのパターンをほぼ均等に行っているが、体重には全く変化を与えない(BMI:24,体脂肪率:22%)。それはそうだろうと思う。もし、この程度の運動量で体重が減るのであれば、オリンピック候補選手などの運動量であれば、体重がなくなってしまう。

 以上のことから推測するに、体重を減らそうと思うと、運動をするよりも食事制限をすることである。運動をしたために食欲が出ては元も子もない。食べた量に見合うカロリー分を運動で消費しようと思えば、オリンピックは無理でも国体ぐらいは出られるかもしれない。それくらい運動をしなければならないことになる。最も簡単な減量は食事制限であるが、それができないのが凡人である。煩悩多き凡人は、食べることが唯一の楽しみである。それを制限してまで減量の必要はないだろう、という方向へ流れていく。先日購入した喪服はウエストのサイズを調節する機能がついている。死亡原因トップのがんでは、やや肥満型の人が最も死亡率が低い、という調査結果を見たことがある。と、いうようなことを理由に、また減量がかなり遠退いた。「年とともに腹が出てきて、ジーンズが似合わなくなってきたなぁ」と、渋々ではあっても認めざるを得ない時期が来る。しかし、身内は10年ぐらい前からそれを感じているという。ただ口に出さないだけである。このままいくと、他人から見れば相当な肥満になっていても、個人的には“やや肥満”、“ちょっと最近太ったかな?” 程度の認識しかしないまま太り続けるかもしれない。“やや”とか“ちょっと”は、自他でかなり幅のある便利な日本語である。