追いムギ
<その1>
毎年、作付面積と品種を検討し、小さな家庭菜園を有効に運営している。中でも難しいのは、連作障害を避けるためのローテーションである。PCを使って品種ごとの色分けをし、何とかやりくりをしている。
ここ数年、雨や気温の異常が多く、収穫のピークの時期を迎える前に終了してしまうことや、花だけ咲いて実を付けなかったりすることがある。去年はピーナツに異変が生じた。雨が少なく半分近くが枯れてしまった。また、例年であれば、10月も終わりに近づけば、葉が黄色く色づき収穫を知らせてくれるが、今年は青々としたままであった。11月に入ると、イチゴの敷き藁用にムギの種を蒔く。しかし、今年はその場所の半分をピーナツが占領したままである。残りの半分にはムギを蒔いたが、ピーナツの部分には蒔くことができない。さてどうしたものか? 予定の半分では敷き藁が不足である。どうしてもピーナツを植えている部分にも蒔きたい。かといって今、ピーナツを収穫することもできない。半年かけて育てたものを無駄にできない。今年は半分程度が枯れてしまったので、どうしても残りの部分は収穫にこぎつけたい。あまり時期が遅くなるとムギを蒔いても発芽しない恐れがある。ムギは寒くても生育するが、発芽となるとそれ相応の温度が必要になる。12月近くになると菜園内では寒くて発芽が難しい。
<その2>
思いついたのが田植えである。小さなポットに大量のムギを蒔き発芽させる。それを一定期間育成し、ピーナツを収穫したのち、田植えのようにして植えていくのである。これはいいアイデアである。早速ポットに大量にムギを蒔いた。見事に一斉に発芽し、すくすくと育ってきた。そろそろムギ植え(田植え)をしたいなと思うのであるが、ピーナツがなかなかそれらしい兆候を見せない。そうこうしているうちに12月も中旬になった。ポットの苗は成長が遅く、色も黄緑色になりだした。ようやくピーナツをすべて収穫し、そこへポットで育てた苗を植えた。
10月15日 菜園内(菜園苗と表記する)とポット(ポット苗と表記する)にムギを蒔く
10月22日 ともに発芽が始まった
11月16日 ともに15cmくらいに育っている
12月10日 ポットの苗を菜園内に植えた
その後、最初から菜園内に蒔いたムギはすくすくと大きく成長し60cmくらいになった。しかし、ポットで育てたものは、新天地で根付くのに時間がかかり、なかなか成長してくれない。なんとなくしおれ気味で色も黄色味を帯びている。
<その3>
1月下旬ごろになりようやくやる気が出てきたようである。萎れかけていた全身をシャキッと伸ばし、これから天に向かって伸びていくぞ、といわんばかりの迫力が出てきた。大急ぎで肥料をやり成長を促した。この時点で、菜園育ちとポット育ちで大きな差が出ていた。これから一気に追い上げるのであるが、さてどこまで追い上げることができるだろうか? 制限時間は夏野菜を植える4月末、または出穂が始まる3月末までの早い方になる。予想としては、菜園苗は出穂が始まる3月末の収穫となるだろう。それに対して、ポット苗は成長が遅れている分、おそらく4月末の収穫となるだろう。3月末の時点でどこまで差を縮めることができるかが見ものである。これからじっくりと観察していきたい。
1月30日 ポット苗は5cm成長して20cmに
菜園苗は3倍に成長して60cmに
<その4>
【HB101の実証テスト】
菜園内の物置にかつて購入した「HB101」(注)が置いてあるのに気が付いた。「開封後は速やかにご使用ください」となっていたが、構わず使ってみることにした。これは天然植物活力液で、植物を超元気にするとなっている。これを塗布することでどれくらいムギの成長を促すことができるかをテストしてみる。追いムギの平均的な苗2株(区別のため背後に木の枝を刺した)に塗布し、しなかったものとの成長具合を比べてみることとする。
2月18日 1回目の塗布(指示通り、葉と土にたっぷりと塗布した。その後は1週間ごとに塗布)
注:杉、桧、松、オオバコより抽出した植物エキスです(すべて国産です)、となっている。
<まだまだひ弱な追いムギ>
<その5>
3月3日
追いムギ:40cm
HB101:50cm
菜園苗:110cm
今年は暖かい日が周期的にやって来た。そんな2月の下旬にムギを観察していると、先端の葉にシワが入ったようになってきた。そろそろ出穂の始まりの知らせである。3月3日、ところどころに出穂が見られたので刈り取りを決断した。例年の比べると1か月程度早い出穂である。追いムギとの比較をするために、一部区画を設けそこは刈り取らずに育成することとした。
出穂前に刈り取るのには理由がある(<菜園コラム>ムギの執念 参照)。これらはすべてイチゴの敷き藁に使用するため、乾燥させて来年の春まで保存する。敷き藁に使用するのは、ムギの軸の部分のみで葉は不要である。先端部分は切り落として乾燥させる。乾燥もいろいろとやってみたが、写真の方法が最もいいように思う。場所を取らないのがベストである。この方法にも欠点があり。ひもで縛った部分の乾燥が遅れるのである。この解消には、適度に乾燥したのちいったん紐をほどき、再度くくりなおすことで束の内と外を入れ替えるのである。これでまんべんなく完全に乾燥させることができる。これを行わないと雨の多い時期には束の中心部にカビが発生する。
<一部残した麦が異様な感じ>
<しっかりと乾燥させる>
<その6>
4月1日
追いムギ:60cm
HB101:65cm
菜園苗:130cm
いよいよ4月である。菜園苗はしっかりと穂をつけ色づき始めた。これに比べ追いムギはまだ60cmである。軸も細く敷き藁にするにはあまりにも貧弱である。HB101苗はそれほど目立って大きくはない。一気に春めき、苗全体が急激に伸び始めたのが原因だろう。ムギがひしめきだしたので、特定のムギだけに噴霧することが難しくなり中止せざるを得なくなった。ここまででもその効果は十分に見ることができた。
追いムギは、菜園苗に比べて極端に小さいにもかかわらず出穂が始まった。ムギの出穂は、成長の度合いではなく、季節になれば出穂するということなのか? そうなると、背丈はもうこれ以上大きくはならないということなのだろうか? それとも成長を続けながら穂も実らせるということなのだろうか?
<小さいながら出穂を開始>
<その7>
4月18日
追いムギ:80cm
HB101:80cm
菜園苗:130cm
ここにきて急に暖かくなったせいで追いムギの成長が著しい。菜園苗に追いつくことも可能ではないかと思われるほどに成長した。すべての苗が出穂し、徐々に穂に実が入っていくのがわかる。まだ今の段階では白い液体だけが入っている。これから徐々に液体から個体へと変化していく。しかし、この区画の収穫は最も遅らせることができても4月末である。5月にはミニトマトの予約が入っている。ミニトマトの雨除けのビニールを張るだけでも2、3日かかる。それを考えるともう少し早めにムギの収穫を終えたいところである。収穫したムギはおそらく完熟していないだろう。しかし、ムギの執念(菜園コラム<その5>参照)でも書いたように菜園内に放置すればしっかりと発芽はする。その処理をしてからでないと敷き藁には使用できない。とんでもない実験のために無駄な作業が増えることになった。自業自得とあきらめるしかない。
<小さいながらも出穂開始>
<その8>
4月29日
追いムギ:85cm
HB101:85cm
菜園苗:130cm
菜園苗は十分に実が入っており、かつ穂の色が金色で堅くなっている。まもなく収穫できる状態になってきた。
追いムギの穂も徐々に実が入り堅くなりつつある。この状態では食べるには未熟ではあるが十分に発芽する。先端の穂を押切で切り取り、敷き藁として活用することにした。一部は翌年のイチゴ用に保存することとした。
ここで気になったのは、菜園苗で敷き藁用に栽培していたものを早期収穫した切り株である。そこからおおくの新芽がでて40cmくらいに成長していた。最終的には緑肥として土にすきこめばいいと思ってそのままにしていた。何とそこから出穂が始まったのである。1回目は完熟とはいえないまでも出穂している。今回が2度目である。これはうまくすると短期間で2度の収穫ができるということなのか? こんなおいしい話があるのなら、次回はぜひそれを実証してみたい。
いろいろと回り道をしたが、結論として、植物は最適な時期に最適な状態で育てるに限る、という当たり前のことが分かった。出遅れた苗をどんなに頑張って育ててみたところで、正常な苗には追い付かないということである。