しずく型盆

 

 ちょっと変わった形をしたお盆である。名付けて「しずく型盆」。決して悲しいときに使うために作ったわけではない。在庫処分をするために作ったのである。では、何の在庫か? ランディングネットを作るためにフレームを大量に作ったが、それを作るのに飽きてきたのである。アトリエでの作業の合間に、ひとり静かにコーヒーを飲むときに使用する。もちろん机で作業をするときはコーヒーカップウォーマーを使用するのであるが、それ以外の場所では、これで運びここにカップを乗せて使用する。これを使うことで、作業中にコーヒーカップに作品や道具をぶつけてこぼしてしまわないようにするのである。

 さて、お盆の話である。この枠の部分がランディングネットのフレームである。ネットを取り付けるために、フレームの外側には溝が切ってある。この際これもデザインの一部として利用することにした。フレームは、黒檀+チーク+黒檀の3層になっている。底板に黒檀を使い、全体を黒っぽくしたかったのであるが、この大きさの黒檀が手に入らなかった。そこで、アトリエ内の材料置き場を物色し、木目がよくて厚み・大きさが適合する栗のこぶを使うことにした。こぶはきれいな模様が出るのであるが難点がある。それは非常に硬くかつ木目が複雑なことである。カンナややすりをかけるときに困るのである。どちらの方向から削ってもきれいに仕上がらないのである。必ずどこかで逆目となり、カンナややすりが引っ掛かり毛羽立った面に仕上がってしまう。これを目の細かいサンドペーパーで均しながら仕上げていく。最後は表面の光沢と防水の仕上げである。これにはえごま油を使用した。栗のこぶはえごま油が適度に浸透し、深い色合いになった。

 このお盆を使用してコーヒーを飲みながら作品を作ると、どういうわけかしんみりとしたものに仕上がってしまう。しずく型のお盆が、しらずしらずの間に一滴の涙に見えてしまうのだろうか。