漆カップ

 

 通常、漆は木でできた容器の表裏を塗装するために使用する。そうすることで表面を強固にし、かつきれいなつやをだすことができる。漆を使用するとき、いったん器に漆を取り分ける。その容器には使用しきれなかった漆がわずかに残る。これを繰り返していたので、底が非常に分厚くなってしまった。まるで琥珀を見ているようで非常にきれいである。これを見ていると、漆だけで容器ができればどれほどきれいだろう、という思いがしてきた。思えばさっそく作業の開始である。どうすればドロドロした漆で形をつくれるか? 鋳物のように型を作りそこに流し込む? 漆は薄く塗れば乾くが厚みがあると乾かない。したがって、型に流し込む方法はとれない。どうしても塗り固めるより方法がない。そこで使用したのが紙コップである。紙コップの内面は水を通さないように防水加工が施してある。これを利用するのである。もし、剥がれなかったとしても、紙であるから取り除くことは可能である。紙コップの内面に漆を塗り乾燥させる。これを百回程度繰り返すのである。作業としては非常に単純である。しかし時間がかかる。2mmの厚さのカップを作るのに1年を要する。一度に塗れる漆の厚さは0.03mm程度である。それを乾かすのに3~7日かかる。そして出来上がれば紙コップを解体し表面を研磨する。するときれいな琥珀色の容器が完成する。見た目には色ガラスの容器である。カップの内面は流れた漆が凸凹と波打っている。あえてこれを研磨せず、ごつごつしたままにした。これにより、光が入ると乱反射してきれいに輝く。なかなか味のあるカップの完成である。

 冷えた飲み物を飲むときや観賞用としてはいいのであるが、あったかい飲み物には向いていない。熱で漆カップが柔らかくなるからである。これは当面、陳列棚に飾っておこう。

<キラキラときれいな反射>

 

<紙コップの防水は全く効果なし>